コテコテ関西弁トーク第5回 (2002年リバイバル新聞に連載)
上野五男牧師
宣伝カーが突っ込んでいった街の名は「飛田」という遊郭の街や。
遊郭というても今の若いモンにはピンとこんかもしれへんけど、今風で言うたら、ソープランドみたいなモンやな。その昔、遊郭といえば、江戸の吉原、京都の島原、長崎の丸山は三大遊郭と言われて有名やったけど、大阪の飛田も昔からよう知られてる。演歌牧師も関西にいた頃、飛田の話は聞いて知ってたけどな、街の中へ行くのは初めてや。
インターネットで飛田を調べてみたで。
そしたら、ここは、昔、刑場やったそうや。そやから、「飛田者」とは「飛田ゆきの処刑者」を意味したことばやったと言う。飛田新地の新地とは新開地にできた遊郭というわけやな。
街に入ってまず、車を止めてな、真利子夫人が奉仕者の青年たちに「悪い霊に負けてお客さんにならないように気をつけて!」と檄を飛ばさはったで。
奉仕者たちはみんな手にチラシをもって街の中へ散っていった。
福音の突撃隊やな。
車に残ったのは運転手の恵吏也先生と案内役の真利子夫人、それに演歌牧師。
ゴスペル演歌を流しながら、車は超スローで飛田の街の中を回り始めたんや。こんなときのゴスペル演歌は「信じてみるわ」がピッタリ。この歌な、演歌牧師の救われる前の人生を、女心にのせて作詞したんモンなんや。
「この世のことしか見えない私。人をだまして生きるもつらい。そんな私の過去を見りゃ。うそで固めた人生よ。あなたと出会う前までは一人泣いてた。あなたと出会う前までは何も見えない。あなた一人が神ですか。あなただけを信じるだけでこんな私も罪な私も赦されるでしょうか。‧‧あなただけを信じるだけで、こんな私も罪な私も赦されるのですね」
ちょっとあてつけに聞こえたかもしれへんけど、とにかくこの歌を歌いまくったで。
歌いながら、店を見てみた。
興味津々。
店はどれも普通の二階建ての民家のようや。
玄関の引き戸は開けたままで、赤い絨毯が敷いてある。二階に昇る階段にも赤い敷物が敷いてある。玄関をあがったところには、顔見せの若い女性が化粧して色っぽい寝間着姿で正座して座ってる。そのそばには、現役を引退したという感じの中年の女性が座ったはる。「あのおばさんが客引きやろか」と想像しながら歌ったで。
車は飛田の街中をくまなく回った。
後で聞いたら、福音突撃隊全員、手分けして一軒ずつ中に入ってチラシを渡していったそうや。周りには居酒屋もいっぱいある。「いつもだと、入っていきにくい居酒屋にもすっと入って、今晩、演歌コンサートですから来て下さい、て言えました」という声も。
隊員の一人が、街角でこの地区の救いのために声を出して祈っていたら、
「商売のじゃまになるから向こうへ行ってくれ!」
と言われたそうや。
それでもひるまず伝道していく根性はすごいもんやで。
ホンマ涙が出るわ。
一仰先生は「今まで、この地区から教会に来た人はいません。だからといって、伝道をやめるわけにはいかないんですよ。彼らにも福音を伝えなければならないのですから‧‧」と言わはった。
すごいなあ。
伝道に命をかけたはる。
演歌牧師の声もかれてきた。
もう夕方やし、そろそろ終わりやろなと思うた。そしたら、先生の声がした。
「さあ、次の地区へ行きます」。
エエッまだ行くんかいな。今度はどこや。
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