コテコテ関西弁トーク第10回 (2002年7月リバイバル新聞に連載)
上野五男牧師
「センセー、実はこの後ですね。ススキノへ行って路傍ライブをしたいんですよ。ススキノって知ってますか?」。
ススキノっていえば、札幌の有名な歓楽街や。
東京でいえば新宿の歌舞伎町みたいなとこや。
「ええ、知ってますよ。飲み屋の多いところでしょ。そこでライブって、なかなか面白そうですね」と、一応、愛想笑いして答えたものの、心の中では「コラ、難儀やで」と、ちょっとビビッてしもうたで。
そやけど、ここで、一人帰るわけにはいかへんがな。
とにかく、(ええい、ままよ、行ったろうやないか)と奮起して、演歌牧師は伝道師の先生、フィアンセ、聖書学院の学生さんたちの後をヒョコヒョコとついていった。
「センセー、もうすぐです。あのへんがススキノです」。
夜の9時を過ぎているというのに、だんだん明るくなってくるんやな。
それにしても、人通りの多いこと。ラッシュ時の新宿や池袋を歩いているみたいや。
しばらく歩いてから、「センセー、ここがススキノの中心街です」と言われて見上げると、けばけばしいネオンがギンギンギラギラ。
「ラスベガスみたいや」と思わずつぶやいたで。
中心街の歩道の一番いい2カ所のコーナーには、すでに先客の「芸人」たちがいてライブの真っ最中。
「センセー、ほら、売れない演歌歌手がこうして歌ってるんですよ」。
見るとなるほど、若い男性演歌歌手がステージ衣装を着て歌ってる。
かなりいい機材を使ってるみたいや。
演歌節がそこいらへんに響いている。
こっちも売れへんゴスペル演歌歌手、「きばりや。演歌歌手はガマンや。この苦労が芸の肥やしになって、いつか花を咲かすんやで」と心の中で声援を送る。
「ここはだめですね。センセー、むこうへ行ってみましょう」と横断歩道を渡ると、そこではラテン系音楽グループのライブ中。
なんと、CDを手に持って、5人が踊りながら歌ってる。
すごい根性や。
これをやれと言われても、でけへんと思うたな。
ここもアカン。
路傍ライブをする場所を探して、ススキノをあちこち歩き回った。
あちこちにストリートミュージシャンがいるんや。
若い女性シンガーが一人で歌っていたり、3人の男性フォークグループが座りながらギターを弾いて歌っていたり、一人で黙々とサックスを吹くおじさんがいたりで、見てるだけでもおもしろいで。
そんなわけでなかなか、演歌牧師のライブできる場所が見つからへん。
「今日は、いい場所を先にとられましたね。仕方ありません。センセー、このへんでどうでしょう」。
ある風俗店の前や。人通りも多い。
「ほな、いきましょか」てなわけで、一発目はおなじみの「神は愛です」を歌い始めた。
無視して通り過ぎる人、「なんや売れん演歌歌手か」と連れに話しながら一瞥をくれる男、顔見て笑って通り過ぎていく若い女性グループ。
札幌大通公園のように立ち止まって聞いていく人はいてへん。「信じてみるわ」、「マサダの涙」「二千年前の約束」「あなた信じて」などゴスペル演歌の名曲(?)をガンガン歌っている間、伝道師の先生グループは、トラクトを道行く人たちに声をかけながら配っていく。
こんな姿を見ていると、感動するんやな。
「よいことの知らせを伝える人々の足は、なんとりっぱでしょう」(ローマ10:15)のみことばが頭に浮かんできたで。そんなエエ気持ちに浸って歌っていると、後ろからコワそーな男の声がしたんや。
「おい、コラッ、この店の前でそんな歌、歌うな!どっか別のところへ行け!」
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